腰  　痛

　現在、日本において最も多い疾患が腰痛と言われています。厚生労働省の国民生活調査によれば、全人口の1/4である約2800万人が腰痛を経験しているとのことです。年々増加しているこの腰痛の原因は何でしょうか？

　腰痛に限ったことではありませんが、今と昔では原因が大きくます。昔は農作業などの肉体労働により、とにかく身体を酷使することが多く、筋肉や関節のオーバーユース（使い過ぎ）が痛みの原因でした。
　従来の治療法である患部の筋肉をマッサージや電気などで緩めて、関節を正しい位置に調整するというのは、当時の原因に対しては効果的だったのです。

　しかし、現代ではデスクワークや便利な家電などの普及により、身体活動の低下に伴う不良姿勢、誤った身体の使い方が大きな原因となっています。そのため、この問題を解決せずに、いくら患部に治療をしたところで効果はないでしょう。

　そのため、痛いところを治療すれば良いという問題ではないのです。

　現代における腰痛の原因は不良姿勢・身体の誤った使い方ということをお伝えさせていただきました。そのため、これらの問題を改善する上でどのような姿勢・動作パターンで痛むのかを検査しなければなりません。

　ここでは簡単な検査になりますが、このような動作で痛むことはありませんか？

　▼動作による痛みの３パターン

基本的にはこのような動作で痛むことが多いのではないかと思います。

ご自身に当てはまる項目をご覧ください。

　腰を曲げると痛むパターンでは、長時間座りっぱなしや中腰姿勢で痛いという方が多く、椎間板ヘルニアや筋・筋膜性の腰痛、腰椎椎体圧迫骨折が疑われます。

　簡単な解剖のお話をさせていただくと、背骨は頸椎〜尾骨まで小さな脊椎が重なり合うことで１本の柱を作っています。腰骨（腰椎）に関しては５つあり、その下には骨盤あるのです。この腰椎をさらに詳しく見ると、

このような形状をしています。

　前の部分を椎体、後ろの部分を椎弓と呼び、腰を曲げて痛む場合は、前の椎体部分に何かしらの問題があります。

○ 椎間板ヘルニア

上下の椎体の間には椎間板があり、衝撃を吸収するためのクッションとなっています。この椎間板が強い衝撃や常時かかる圧力に耐えきれなくなり、椎間板の中にあるゼリー（髄核）が後方に飛び出し神経を圧迫する疾患が椎間板ヘルニアです。この椎間板ヘルニアの特徴は、神経が圧迫されていることによる脚への強い痛み（神経痛）です。重症例では、生活が困難となるため、オペ適応になることもあるほどです。

　また、好発年齢は20〜30代であり、椎間板の水分含有量が影響しています。そのため、年齢とともに椎間板の水分保有量は減少していき、圧迫によって中の髄核が飛び出ることはほとんどないのです。論文によれば50代以上の80%が症状の有無に関わらず、椎間板の潰れが認められていることから、病院で『椎間板ヘルニア』と診断されていても、実際の所見（神経症状など）と一致なければ、深刻な問題ではないでしょう。

○ 筋・筋膜性腰痛　

　筋・筋膜性腰痛とは、腰にある脊柱起立筋や腰胸筋膜といった組織が腰を曲げる動作により伸ばされ痛みが現れます。通常であれば、これらの組織が伸ばされても、痛みが現れることはありません。ですが、何らかの原因によりこれらの組織が必要以上に固くなる必要があり、その状態からさらに伸ばされることで痛みが現れるです。
　そのため、必要以上に固くなっている原因を特定し、的確にアプローチをすることで根本的に改善していきます。

○ 椎体圧迫骨折

　高齢者の方の場合、最も疑われるのが椎体の圧迫骨折です。圧迫骨折は骨粗鬆症などを基盤にしているため、椅子に座ったりくしゃみをしたりなどの軽微な衝撃であっても起こる可能性があります。圧迫骨折がある場合では、安静にすることが最優先になるため、閉経後の女性や70歳以上の方や背骨の曲がりが強い方はまず、病院を受診することをおすすめします。

　腰を伸ばすと痛むパターンでは、長時間の立ち姿勢や座っている状態から立つなどの動作時に痛みを訴えるケースが多く、椎間関節症や脊柱管狭窄症、腰痛分離症などの問題が考えられます。

○ 椎間関節症

　椎間関節症とは、背骨の後方に左右２つある椎間関節のどちらかにストレスがかかることで痛みが現れる疾患です。腰痛全体の22％が椎間関節症であり、最も多い原因とされています。この関節は、手足のように大きく動く関節ではないため、可動性よりも安定性に関わります。何かしらの原因により、この椎間関節が必要以上に圧迫、もしくは動き過ぎてしまうことで負担がかかってしまうのです。

○ 脊柱管狭窄症　

　脊柱管狭窄症は、病院での診断で椎間板ヘルニアと並んで多い疾患で全体の11％を占めています。主に歩いていると痛みが現れ、休むと回復する。歩くのは辛いけど、自転車は乗れるといったことが特徴です。
　脊柱管は、背骨の中を神経が通過するための通り道のことで、この脊柱管を圧迫してしまうことで症状が現れます。
　この脊柱管狭窄症は加齢と共に起こる骨の変形、椎間板の変性、靭帯の骨化などが基盤にあり、重症の場合ではオペが必要になります。ですが、ほとんどの場合は適切な施術や運動療法により、改善もしくは軽減することが可能です。

○ 腰椎分離症　

　腰椎分離症は主に若年者の新体操やバレエなどの競技で過度な腰の反りを求められることで発症します。腰痛で病院を受診した際に、レントゲンにより発覚するケースもありますが、若い頃に発生した腰椎分離症が完治していないことが考えられます。この場合、腰痛の原因となっている問題は別にありますが、身体の使い方が変わっていなければ同様のストレスが加わり続けているため、椎間関節症などの問題に移行している可能性があります。

　どんな姿勢や動きをしても強い痛みが変わらない、数日経っても全く変化がない場合は、内臓器疾患や腫瘍、感染症などの重大な病変が疑われます。そのため、この場合はすぐに病院を受診することが大切です。

　病院で大きな異常が認められなければ、あらためて姿勢や動作を検査し安心して施術をすることができるため、病院に行ってもどうせ治らないとは言わずに診断だけでも受けるようにしましょう。